主要なDNA修復経路
1. 塩基除去修復(Base Excision Repair, BER)
酸化損傷・脱アミノ化・アルキル化などによる**単一塩基の損傷**を修復する経路。
- 主要酵素: DNAグリコシラーゼ、APエンドヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼβ、DNAリガーゼIII
- 修復の流れ: 損傷塩基を認識 → 除去 → 糖-リン酸骨格切断 → 新しい塩基を補填 → 結合修復
主に活性酸素種による損傷や加齢によるDNA損傷の修復に重要。
2. ヌクレオチド除去修復(Nucleotide Excision Repair, NER)
紫外線や化学物質により生じる**体積の大きなDNA損傷(ピリミジンダイマーなど)**を除去。
- 主要酵素: XPA〜XPG、TFIIH複合体、DNAポリメラーゼδ/ε、DNAリガーゼI
- 修復の流れ: 損傷認識 → 二本鎖の切開 → 損傷部除去 → DNA再合成 → リガーゼによる封鎖
欠損すると色素性乾皮症(XP)などの疾患を引き起こす。
3. ミスマッチ修復(Mismatch Repair, MMR)
DNA複製時に生じた**塩基の誤対合や挿入・欠失ループ**を修正する。
- 主要酵素: MSH2・MSH6(MutSα)、MLH1・PMS2(MutLα)など
- 修復の流れ: ミスマッチ検出 → 新生鎖の切断 → 誤塩基除去 → 再合成・連結
欠損は大腸がん(リンチ症候群)の原因となる。
4. 相同組換え修復(Homologous Recombination Repair, HRR)
放射線や抗がん剤などで生じた**二本鎖切断(DSB)**を、相同DNA配列を利用して正確に修復。
- 主要酵素: RAD51、BRCA1/2、ATM、RPA、MRN複合体
- 特徴: 正確性が高く、主にS・G2期で機能。
BRCA遺伝子変異によりHRRが障害されると、PARP阻害剤が有効になる。
5. 非相同末端結合(Non-Homologous End Joining, NHEJ)
**相同性配列を必要とせず**に二本鎖切断を直接再結合する迅速な修復経路。
- 主要酵素: Ku70/80、DNA-PKcs、Artemis、DNAリガーゼIV
- 特徴: 正確性は低いが、全細胞周期で機能。
免疫系のV(D)J再構成にも関与。
6. 直接修復(Direct Reversal Repair)
酵素が**損傷塩基を直接化学的に修復**する単純な経路。
- 代表例: O6-メチルグアニントランスフェラーゼ(MGMT)によるメチル基除去
- 特徴: 簡便かつエネルギー効率が高いが、損傷種類は限定的。
MGMTはアルキル化剤感受性や抗がん剤耐性の研究で重要。
まとめ
DNA修復は生命維持の根幹であり、これらの経路が協調して**ゲノム安定性**を保つ。
修復異常はがん・老化・神経変性疾患に直結する。