血液検査大百科

主要項目の基準値(成人の目安)・高値/低値で疑う病気・前兆・緊急サイン・解釈のコツを網羅。医療情報は変わるため、具体的判断は医師へ。

短縮早見(超概要)
炎症 CRP↑ / WBC↑ → 感染・炎症の有無を示唆。
肝障害 AST/ALT/γ-GTP↑ → 肝炎・脂肪肝・薬剤性。
腎機能 Cr↑ / eGFR↓ → 腎不全・脱水の疑い。
糖代謝 HbA1c↑ → 糖尿病・耐糖能異常。
腫瘍マーカー 単独は診断不可、経時的推移で有用。
→ 詳細は以下の各セクションを展開してください。
血算(CBC)・血液学的指標
項目基準値(目安)高値で疑うこと低値で疑うこと
白血球(WBC)3,500–9,000 /μL細菌感染、炎症、白血病、ストレスウイルス感染、骨髄抑制、薬剤(化学療法)
好中球(Neutrophil)1,800–7,500 /μL(比率 40–70%)細菌感染、炎症、急性ストレス薬剤性(抗がん剤)、重症感染で消耗
リンパ球1,000–3,000 /μL(比率 20–40%)ウイルス感染、慢性感染、一部白血病ステロイド、免疫不全、栄養不良
単球/好酸球/好塩基球種別で異なる単球↑:慢性感染/炎症、好酸球↑:アレルギー/寄生虫低値は臨床的意味が限定的
赤血球(RBC)男性: 4.30–5.70 ×10^6/μL 女性: 3.80–5.00多血症、脱水、肺心症貧血(出血、造血不全、溶血)
ヘモグロビン(Hb)男性: 13.5–17.5 g/dL 女性: 12.0–15.5多血症、脱水貧血(鉄欠乏、慢性疾患、溶血)
ヘマトクリット(Hct)男性: 40–52% 女性: 36–46%脱水、多血症貧血
MCV(平均赤血球容積)80–100 fL大球性貧血(B12/葉酸欠乏)小球性貧血(鉄欠乏、慢性疾患)
MCH/MCHCMCH: 27–34 pg MCHC: 32–36 g/dL球性・色素過多など鉄欠乏性貧血で低値
網赤血球0.5–2.5%出血回復期・溶血(増加)骨髄造血能低下(骨髄不全)
血小板(Plt)150–350 ×10^3/μL反応性増加、骨髄増殖性疾患ITP、薬剤性、骨髄抑制、DIC
末梢血塗抹・形態検査白血病、溶血、形態異常(赤血球、白血球)

血液学的「前兆」パターン

  • 持続する微小貧血(Hb軽度低下+フェリチン低下):潜在的鉄欠乏(消化管出血の検索が重要)
  • 白血球の増減が激しい変動:骨髄疾患や薬剤副作用の可能性
  • 血小板の漸減傾向:ITPやDIC、肝障害の前触れ
生化学(肝・腎・膵・電解質・蛋白等)
項目基準値(目安)高値で疑う低値で疑う
AST(GOT)8–40 IU/L肝細胞障害(肝炎・脂肪肝)、心筋障害、筋傷害
ALT(GPT)5–45 IU/L肝障害(肝特異性高め)
γ-GTP男性: 10–70 IU/L 女性: 8–45 IU/Lアルコール性肝障害、胆道障害、薬剤性
ALP35–120 IU/L胆道うっ滞、骨疾患(ALP骨由来)低栄養、亜鉛欠乏
総ビリルビン0.2–1.2 mg/dL溶血、肝障害、胆道閉塞
直接/間接ビリルビン閉塞性黄疸(直接↑)/溶血(間接↑)
総蛋白(TP)6.5–8.0 g/dL慢性炎症、脱水栄養不良、肝合成低下
アルブミン(Alb)3.8–5.2 g/dL脱水で相対的↑慢性肝疾患、栄養不良、ネフローゼ
尿素窒素(BUN)8–20 mg/dL腎不全、脱水、高蛋白食、消化管出血肝不全、低蛋白食
クレアチニン(Cr)男性: 0.65–1.07 mg/dL 女性: 0.50–0.90腎機能低下、筋量↑低筋肉量で相対的低値
eGFR≥60 mL/min/1.73m²が目安<60でCKD(慢性腎臓病)の疑い
Na(ナトリウム)135–145 mEq/L高Na:脱水、糖尿病性高浸透圧低Na:SIADH、肝心不全、利尿薬
K(カリウム)3.5–4.9 mEq/L高K:腎不全、溶血、薬剤(K保持性利尿薬)低K:嘔吐、下痢、利尿薬、アルドステロン過剰
Cl(塩素)98–108 mEq/L酸塩基平衡の乱れ同上
Ca(カルシウム)8.5–10.2 mg/dL(補正Caに注意)副甲状腺機能亢進、骨吸収亢進、悪性腫瘍副甲状腺機能低下、ビタミンD欠乏、腎不全
無機リン(P)2.5–4.5 mg/dL腎機能低下、骨代謝異常飢餓、アルコール、ビタミンD欠乏
AST/ALT比AST>ALT:アルコール性肝障害や筋障害示唆
アミラーゼ30–110 U/L膵炎、唾液腺炎
リパーゼ10–140 U/L膵炎(感度高)
乳酸(Lactate)0.5–2.2 mmol/L組織低酸素、敗血症、代謝異常

生化学の「前兆」パターン

  • ALT軽度上昇が持続:非アルコール性脂肪肝(NAFLD)や慢性肝炎の可能性
  • 尿素窒素↑とクレアチニン↑の同時上昇:腎機能悪化または脱水
  • 補正Caの異常:骨代謝や副甲状腺疾患を疑うシグナル
代謝(糖代謝・脂質・痛風関連)
項目基準値(目安)高値で疑う低値で疑う
空腹時血糖70–109 mg/dL耐糖能異常、糖尿病低血糖(薬剤、インスリン過量)
随時血糖変動あり食後高血糖、糖尿病低血糖
HbA1c(NGSP)4.6–6.2%(診断の目安: 6.5%以上で糖尿病)糖尿病・耐糖能異常貧血や赤血球寿命短縮で影響を受ける(低値に)
LDLコレステロール70–139 mg/dL(リスク別目標あり)動脈硬化、冠動脈疾患リスク甲状腺機能亢進、栄養不良
HDLコレステロール40–60 mg/dL以上が望ましい低HDLは心血管リスク高HDLは遺伝的要因や薬剤
中性脂肪(TG)30–149 mg/dL脂質異常、糖尿病、肥満、高TGは膵炎リスク低栄養、甲状腺機能亢進
尿酸(Uric acid)男性: 3.6–7.0 mg/dL 女性: 2.5–6.0痛風、尿路結石、腎機能低下低尿酸は遺伝性代謝異常や薬剤(尿酸排泄促進)

代謝の前兆パターン

  • HbA1c微増(例 5.6→5.9%)+TG上昇:インスリン抵抗性の進行(メタボ・脂肪肝リスク)
  • LDL増加が続く:動脈硬化リスクの上昇 — 生活習慣改善+薬物療法の検討
内分泌(甲状腺・副腎・下垂体など)
項目基準値(目安)高値で疑う低値で疑う
TSH0.35–4.94 μIU/mL(検査法差あり)甲状腺機能低下(甲状腺低下症:TSH↑)甲状腺機能亢進(TSH↓)
Free T4(FT4)0.7–1.48 ng/dL甲状腺機能亢進甲状腺機能低下
Free T3(FT3)2.3–4.1 pg/mL甲状腺機能亢進甲状腺機能低下
コルチゾール(血清)朝: ~6–23 μg/dL(検査法差あり)ストレス、クッシング症候群(慢性高コルチゾール)副腎不全(アジソン病)
ACTH7.2–63.3 pg/mL(検査法差)下垂体性/副腎性の鑑別に用いる同上
プロラクチン男性: 2–18 ng/mL 女性: 2–29下垂体腺腫、薬剤性
LH/FSH/エストラジオール(女性)月経周期で大きく変動閉経、卵巣機能低下、下垂体疾患性腺機能低下

内分泌の前兆パターン

  • TSH微上昇+FT4正常(subclinical hypothyroidism):経過観察と症状評価が必要
  • コルチゾール昼夜逆転や慢性的高値:Cushingの疑い(糖代謝や骨粗鬆のリスク)
腫瘍マーカー(代表的指標と注意点)

腫瘍マーカーはがんの可能性の“手がかり”であり、単独では診断できません。良性疾患や喫煙、肝障害などで上昇することもあります。

マーカー主対象注意点
CEA大腸がん・胃がん・膵がんなど喫煙で上昇、炎症でも変動
CA19-9膵臓がん・胆道がん胆道閉塞でも上昇しうる
AFP肝細胞がん慢性肝炎・妊娠でも影響
PIVKA-II(DCP)肝細胞がんビタミンK欠乏で影響
PSA前立腺がん前立腺肥大・炎症でも上昇、年齢で基準が異なる
CA125卵巣がん月経・子宮内膜症・妊娠で上昇
SCC antigen扁平上皮がん(肺、子宮頸部など)皮膚炎・良性疾患でも上昇
CYFRA21-1 / NSE / ProGRP肺がんの補助指標(組織型で使い分け)腎機能・炎症で変動

腫瘍マーカーの使い方

  • スクリーニング(無症状の早期発見)には感度が低い場合が多い。
  • 治療後の再発モニターや治療効果判定で有用(経時的変化を評価)。
  • 陽性なら画像検査(CT/MRI/内視鏡)へ進む。
免疫・自己抗体・補体・免疫グロブリン
項目用途疑う疾患
ANA(抗核抗体)全身性自己免疫のスクリーニング全身性エリテマトーデス、混合性結合組織病
抗dsDNASLE特異性(活動性評価)SLE(活動性に伴い上昇)
抗CCP(抗シトルリン化ペプチド)関節リウマチの高特異度マーカー関節リウマチ
ANCA(PR3-ANCA, MPO-ANCA)小血管炎の診断補助顕微鏡的多発血管炎、肉芽腫性血管炎
C3/C4(補体)免疫複合体性疾患の活動性評価低値:SLE活動性、腎炎
IgG/IgA/IgM免疫能の総括(低下は免疫不全)多発性骨髄腫、免疫不全、慢性炎症
免疫グロブリン電気泳動(SPEP)M蛋白の検出多発性骨髄腫、MGUS

自己抗体はスクリーニング〜確定診断の一部を担うが、症状と照合することが大事。

感染症検査(血清学・抗原・PCRなど)
検査用途陽性で疑うこと / 注意
HBsAg / anti-HBsB型肝炎の感染・免疫判定感染存在 / 既往・ワクチン接種歴の判定
HCV抗体C型肝炎のスクリーニング陽性でウイルスRNA確認(持続感染か一過性感染か)
HIV抗体/抗原(4th gen)HIV感染のスクリーニング陽性で確認検査必須(ウイルス量検査)
RPR/TPHA梅毒のスクリーニング/確認感染の有無・治療効果判定
プロカルシトニン(PCT)細菌感染 / 敗血症の補助高値は重症細菌感染を示唆
ウイルスPCR(HBV DNA, HCV RNA, SARS-CoV-2 等)直接的ウイルス検出感染の確定・治療開始/中止の判定

感染症検査は時期(感染からの経過)によって陽性化のタイミングが異なります(ウィンドウ期間)。

凝固系・血栓(出血傾向・血栓傾向)
項目基準値(目安)高値で疑う低値で疑う
PT(プロトロンビン時間)/INRPT: 11–13.5秒 INR: 0.8–1.2抗凝固薬投与・肝合成能低下・ビタミンK欠乏血栓傾向(低PTは臨床的に重要性限定)
APTT25–40 秒ヘパリン、凝固因子欠乏、抗リン脂質抗体で延長凝固亢進状態(稀)
フィブリノーゲン200–400 mg/dL急性相反応で増加(炎症)DIC、肝合成低下で低下
D-ダイマー<0.5 μg/mL(基準は方法依存)血栓溶解産物増加:VTE、肺塞栓、DIC低値は特に意義なし

D-ダイマーは感度は高いが特異度は低い。陽性なら画像検査で血栓の有無を確認。

心臓・筋肉(心筋逸脱酵素など)
項目基準値(目安)上昇で疑う
Troponin I/T検査法に依存(通常は0.01–0.04 ng/mL未満目安)急性心筋梗塞、心筋障害、心筋炎
CK(クレアチンキナーゼ)男性: 40–200 U/L 女性: 35–150筋障害(横紋筋融解、筋炎)、激しい運動、薬剤(スタチン)
BNP / NT-proBNPBNP: <100 pg/mL 目安 NT-proBNP: 年齢依存心不全の重症度指標(腎機能・年齢で影響)

胸痛や呼吸困難がある場合、トロポニンと臨床症状の組合せで急性冠症候群を評価。

ビタミン・ミネラル・特殊(鉄代謝・B12等)
項目基準値(目安)高値で疑う低値で疑う
フェリチン男性: 30–400 ng/mL 女性: 10–150鉄過剰、炎症で偽高値鉄欠乏(早期指標)
血清鉄(Fe)60–170 μg/dL鉄過剰、溶血鉄欠乏
TIBC(総鉄結合能)250–450 μg/dL鉄欠乏で増加鉄過剰で低下
ビタミンB12200–900 pg/mL(検査法差)補充過多(稀)B12欠乏:巨赤芽球性貧血、神経症状
葉酸3–17 ng/mL補充過多(稀)葉酸欠乏:巨赤芽球性貧血
ビタミンD(25(OH)D)20–50 ng/mL(欠乏 <20)過剰補給で高Ca骨粗鬆、筋力低下、免疫関連影響
亜鉛 / 銅 / セレン検査法依存代謝異常やサプリ過剰味覚障害、皮膚症状、貧血(銅)など

フェリチンは炎症で上がるため、炎症があると「隠れた鉄欠乏」を見逃す可能性あり(CRPと合わせて評価)。

解釈のコツ・チェックリスト(医師向けでなく一般向け)
  1. 基準値は検査室ごとに違う: 検査結果に表示された基準範囲をまず確認。
  2. 一回の異常に過剰反応しない: 再検が必要なことが多い(特に微小変化)。
  3. 推移が大事: 定期採血でのトレンドを見ると前兆が分かりやすい。
  4. 前処置を確認: 空腹、薬・サプリ、激しい運動、入浴、採血時間で変動。
  5. 複数の関連項目を組み合わせる: 例:ALT上昇+γ-GTP上昇→アルコール性/胆道性の前触れ、ALT単独軽度↑→NAFLDの疑い。
緊急サイン(すぐ受診が必要)
  • トロポニン急上昇+胸痛/呼吸困難 → 直ちに救急(急性冠症候群の可能性)
  • CRP・WBCが急上昇+高熱・悪寒 → 敗血症/重篤感染の疑い
  • K(カリウム)著増+不整脈/筋力低下 → 電解質異常で致死的不整脈の危険
  • D-ダイマー大幅増+呼吸困難/片脚腫脹 → 肺塞栓/深部静脈血栓の疑い
  • 急激なHb低下(出血症状や黒色便) → 消化管出血などの緊急対応
  • CK極端上昇+暗色尿/乏尿 → 横紋筋融解(急性腎障害の危険)

これらのサインがある場合は救急受診または救急車を検討してください。

補足:検査の限界・ウィンドウ期間・偽陽性/偽陰性

ウィンドウ期間: 感染や抗体検査は時間が経たないと陽性にならない場合があります(例:HIV、HBVなど)。

偽陽性: 炎症や薬剤、妊娠などで腫瘍マーカーや自己抗体が上昇することがあります。

採血条件: 空腹、運動、脱水、採血前の薬剤などで結果が大きく変わります。検査前の指示は守りましょう。

免責事項: 本文書は一般向けの医療情報であり診断を提供するものではありません。検査値の判断は医師による診察・画像検査・病歴照合が必要です。急な症状や上記の緊急サインがある場合は速やかに医療機関を受診してください。