前立腺癌の骨転移|治療方法(拡張版)
目的:痛みの制御・骨関連事象(骨折/脊髄圧迫)予防・腫瘍制御・QOL維持。
病期は mHSPC(転移性ホルモン感受性)と mCRPC(去勢抵抗性)で分けて方針を決め、全身治療+骨対策+局所治療を組み合わせます。
病勢の定義とボリューム分類
| mHSPC / mCRPC |
mHSPC:ADT(テストステロン抑制)に感受性あり。
mCRPC:去勢状態でもPSA/画像で進行(テストステロンは抑制域)。
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| 腫瘍ボリューム(CHAARTED 目安) |
高ボリューム:内臓転移 or 骨転移4か所以上(うち脊椎・骨盤以外に1か所以上)。
低ボリューム:上記に当てはまらない。
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| 発症様式 |
de novo(初発時に転移) / 再発転移(局所治療後) で予後・選択が変わることあり。 |
初期の道筋(フローチャートの要点)
- 画像+PSAで現状把握(骨シンチ or PSMA PET、CT/MRI)。痛み・骨イベントリスクを評価。
- mHSPC なら ADT 開始+原則強化療法(AR標的薬 or ドセタキセル、症例により併用)。
- 骨リスク高ければ 骨修飾薬(デノスマブ/ゾレドロン酸)を早期から検討。
- 局所疼痛や破壊性病変には 外照射(EBRT/SBRT) を追加、切迫骨折は整形外科と連携し固定。
- mCRPC になったら前治療と耐性機序を踏まえ作用機序を変更(AR薬 ↔ 化学療法 ↔ 放射性治療薬/±PARP)。
病期別戦略(mHSPC / mCRPC)
| 病期 | 基本 | 推奨の強化例・使い分け |
| mHSPC |
ADT(LHRHアゴニスト/アンタゴニスト or 外科的去勢)を開始 |
- AR標的薬:アビラテロン+ステロイド/エンザルタミド/アパルタミド/ダロルタミド
- ドセタキセル:特に高ボリューム・de novo で選択ことが多い
- 三剤:ADT+ドセタキセル+AR薬(体力・合併症を見て個別判断)
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| mCRPC |
去勢状態を維持しつつ作用機序の異なる薬剤へ切替/追加 |
- AR標的薬(未使用 or 交替)
- 化学療法:ドセタキセル/カバジタキセル
- PARP阻害薬:BRCA1/2 等 HRR 変異で有効性(遺伝学的検査)
- 放射性治療薬:ラジウム-223(内臓転移なし・骨症状主体)/PSMA標的放射線(ルテチウム177-PSMA 等;施設適応)
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⚠️ ラジウム-223+アビラテロンの併用は骨折リスク増加の報告。必要時は骨修飾薬併用と適応の厳密確認を。
症例シナリオ別の使い分け(目安)
| シナリオ | 選択のヒント |
| de novo・高ボリューム・痛み強い |
ADT+AR薬+/−ドセタキセルを積極検討。疼痛部位へEBRT。骨修飾薬を早期導入。 |
| 低ボリューム・有症状軽度 |
ADT+AR薬を基本に。限局的多発であれば疼痛部位へSBRT併用も。 |
| mCRPC・AR薬後に進行 |
化学療法(ドセタキセル→カバジタキセル)へ。PSMA集積あれば放射性治療薬を検討。 |
| HRR(BRCA等)変異あり |
PARP阻害薬の適応を検討(単剤/併用は適応・保険を要確認)。 |
| 骨そのものへの対策 | 要点 |
| 骨修飾薬 |
デノスマブ or ゾレドロン酸で骨関連事象を低減。投与前に歯科評価(顎骨壊死対策)、Ca/VitD補充、腎機能/低Ca血症に注意。 |
| 局所治療 |
EBRT/SBRTで疼痛軽減・破壊抑制。整形外科的固定は切迫/病的骨折で早期に。 |
副作用マネジメント早見表
| 治療 | 主な副作用 | 対策 |
| ADT(去勢) |
ホットフラッシュ、性機能低下、筋量↓、骨量↓、代謝異常 |
運動(筋トレ+有酸素)、VitD/Ca、DEXA、食事管理、必要時症状治療 |
| AR標的薬 |
倦怠、血圧↑、浮腫、肝機能↑、発作リスク(稀)等 |
定期採血(肝機能/電解質/血圧)、薬物相互作用チェック |
| ドセタキセル/カバジタキセル |
骨髄抑制、感染、末梢神経障害、悪心 |
発熱性好中球減少予防、用量調整、支持療法、手足のしびれ観察 |
| PARP阻害薬 |
貧血、吐気、疲労、骨髄抑制 |
血算モニタ、用量調整、相互作用管理 |
| ラジウム-223 |
骨髄抑制、一過性疼痛増悪 |
血算モニタ、疼痛管理、適応(内臓転移なし)厳守 |
モニタリング頻度の目安
| 項目 | 頻度の目安 |
| PSA | 治療中は4–12週ごと、安定時は8–12週。上昇傾向が続く/症状悪化なら前倒し。 |
| 採血(血算/肝腎機能/ALP/LDH/Ca) | 薬剤に応じて毎サイクルまたは4–8週。 |
| 画像(CT/MRI/骨シンチ or PSMA PET) | 症状・PSA動向に応じ3–6か月ごと。新症状時は適宜。 |
| 骨密度(DEXA) | ADT中は6–12か月ごとに評価。 |
| 歯科チェック | 骨修飾薬開始前に必須、以後も口腔ケアを継続。 |
生活・栄養・骨健康の実践
| 運動/生活 | ポイント |
| レジスタンス運動 | 週2–3回、主要筋群。筋量維持・骨密度/代謝改善。 |
| 有酸素+バランス訓練 | 疲労軽減・転倒予防。痛みが強い日は短時間分割。 |
| 禁煙/節酒・睡眠 | 治療効果・副作用軽減に寄与。昼寝は短く。 |
| 栄養/補充 | ポイント |
| カルシウム | 1,000–1,200mg/日(食事+必要時サプリ) |
| ビタミンD | 25(OH)D を確認し不足時補充。 |
| たんぱく質 | 筋量維持のため十分量を(腎機能に応じ調整)。 |
今すぐ受診すべき緊急サイン
| 脊髄圧迫の疑い | 新規/増悪の強い背部痛、下肢のしびれ・脱力、排尿/排便障害 → 迅速な救急受診。ステロイド、緊急画像、減圧/照射。 |
| 高Ca血症 | 倦怠、食欲低下、吐き気、意識変化 → 点滴/補正が必要。 |
| 病的骨折/切迫骨折 | 突然の激痛、荷重不能 → 画像評価・固定/手術。 |
| 発熱性好中球減少 | 発熱・悪寒・だるさ → 速やかに受診し抗菌薬・支持療法。 |
受診時に伝えるチェックリスト
- 痛みの場所・強さ・新規かどうか(0–10で評価)
- PSAの最近の推移、採血(ALP/LDH/Ca など)の変化
- 歩行・転倒の不安、しびれ/脱力、排尿・排便の変化
- 口腔内の症状(骨修飾薬使用時)
- 現在服用中の薬・サプリ(相互作用チェック)
補足・注意
本ページは一般向けの情報整理です。適応・用量・保険適用は時期/地域/施設で異なります。治療は必ず主治医(泌尿器科/腫瘍内科/放射線治療科)と相談のうえ決定してください。